しかし、近年のがん治療では、分子標的治療薬の登場や、副作用対策の改善により、治療医は、1次、2次、3次へと治療法を提示できるようになり、一方、わらにもすがる思いの患者・家族は、それら治療法に治癒の希望を託し続けることになる。
結果、死の間際まで治療が継続され、治療の限界、即命の限界の如(ごと)き状況が生まれている。患者・家族が、人生の最終章をしっかりと生きる時間を持てないままに、いきなり現実的な死に直面することが、目立ってきたのである。
そもそも、転移・再発した固形がんの殆(ほとん)どは、最新の分子標的治療薬をもってしても、治癒することは困難であり、その延命効果は、数年に及ぶこともあるが、月単位のことも少なくない。時には副作用で命を縮める場合もある。次から次の治療に多くの時間を割いても、上記のような現実であることを知れば、治療を選ばないという生き方もある。
≪「ブラックボックス」に≫
にもかかわらず、緩和ケアの現場にいると、少なからぬ患者・家族が「医師が新たな治療法を提示するという事は、治癒する可能性があるからだと思っていた」と述懐するのである。悪い情報を伝えることの大変さは理解できるが、改善されるべき点であろう。