■英語で学ぶ公衆衛生大学院開校へ/世界標準プログラムで医学改革
「聖路加は新しい歴史のページを切り開きます」。4月に聖路加国際大学の学長に就任した福井次矢氏は聖路加国際病院の院長を兼任し、手腕を発揮している。来春には大学院公衆衛生学研究科(仮称)の開校を目指して、申請中という。聖路加国際大学の目指す方向や医学教育のあり方を聞いた。(大家俊夫、山本雅人)
--公衆衛生の大学院を開校するきっかけは何ですか
「米ハーバード公衆衛生大学院で学んだ経験が大きいですね。そもそも米国には臨床医として留学したのですが、公衆衛生の重要性に気づき、最後の1年間、臨床研修は夜間にして、日中はハーバードの授業に専念したのです。同年代の米国の医師らが日本の医師らにないスキルを持っていたのでした。最たるものは、一流の科学誌に論文をどんどん発表していることでした。その実力差に愕然(がくぜん)とし、日本にも公衆衛生を学ぶ場が必要と痛感したのです」
--なぜ、公衆衛生を学ぶことが重要なのですか
「それは公衆衛生がカバーする統計学、疫学、行動科学といった分野をきちんと学んだか学ばないかで、医師としてあるいは研究者として大きな差が出るからです。統計学は医師が臨床研究に携わるときに必須となる。疫学は生物医学で解明できないことを証明できることがあり、行動科学は患者に行動変容を起こしてもらう際に論理的な根拠になります」
--京都大での経験を踏まえての開校ですね
「私はまず、ハーバードでの経験を基に、わが国で初めての公衆衛生大学院を京都大に設立するのに携わりました。聖路加では医学部から独立した形の公衆衛生大学院となります。公衆衛生によって医学教育を改革したいですね」
--初年度の募集は?
「文部科学省から認可をいただければ、初年度は25人の募集を予定しています。働きながら学べるよう、平日夕方や土曜日に授業を設定します。奨学金の制度も整えます」
--英語で授業をするのですか
「そうです。原則、英語です。教授陣も少なくとも3分の1は外国人を採用します。英語の補習を行いますので、英語の苦手な人もチャレンジしてほしいですね」
--修了後の活躍の場は?
「大学院は通常は2年コース、過去の経歴や実力によっては1年コースも用意します。修了後は、真の意味での臨床研究や厚生行政の分野で活躍できるでしょう。海外なら世界保健機関(WHO)をはじめとする国際機関の仕事も可能でしょう。聖路加は米国の公衆衛生教育協議会(CEPH)が求める主な要件を満たすプログラムを提供することにしており、英語で学んだ国際標準の『公衆衛生学修士』の肩書は世界に出ていくときに大きな武器となります」
--次の構想はありますか
「米国のような医学の専門職大学院、メディカル・スクールの開校を描いています。一般の4年制大学を卒業後に入学するのがメディカル・スクールで、学生の目的意識が明確になり、意欲のある医師をより効率的に社会に輩出することが可能となります」
--最後に一言を
「世界的に有名な総合病院メイヨー・クリニック(本部・米ミネソタ州)は病院に附属する形でメディカル・スクールを開校し、成果を挙げています。日本の医師養成制度や医療をより望ましい方向に変えられるよう、聖路加は新しい歴史に向け前進します」
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【プロフィル】福井次矢
ふくい・つぐや 1976(昭和51)年、京都大医学部卒。米ハーバード大公衆衛生大学院修了後、京都大大学院医学研究科教授などを経て、2005年から聖路加国際病院長。今年4月、聖路加国際大学長に就任。65歳。