「なんで今回は産むん」という心ない言葉もあった。その後、両家の話し合いが再度あったが、B男は中絶を求めたことは謝罪しつつも、「シングルマザーは大変やから」と結婚する意思がないかのような発言を連発。妊娠発覚からわずか1カ月で、2人の婚約関係は破綻(はたん)した。
中絶要求=婚約破棄?
A子さんは26年夏、「2人の間では妊娠と結婚が一体のものであり、中絶を求めたのは不当な婚約破棄にあたる」として、B男に慰謝料など約390万円の支払いを求める訴訟を裁判所に起こした。
1審判決はA子さんの請求を棄却。一方、A子さんの控訴を受けた高裁は今年6月、1審判決を取り消してB男に約120万円を支払うよう命じた。
判断が分かれたポイントは何だったのか。2つの判決文を読み比べると、裁判官の女性観ともいうべき考えの違いが透けて見えるようで、なかなか興味深い。
まずは一つ目の争点。中絶を求めたことが、婚約破棄を意味するか-。B男側は「中絶しても、その後に結婚する意思はあった」と主張。A子さんは「結婚が前提で妊娠した。中絶を求めるのは婚約破棄に等しい」と訴えた。
この点について、1審はA子さんが自らの意思で同棲していた家を出て、実家に戻ったことを重視。両家の最後の話し合いで、B男の態度に激高したA子さんの母親が「子供はこちらで産んで育てます」と発言したことも踏まえ「男性側が一方的に婚約を破棄したとは認められない」として、A子さんの請求を棄却した。