内閣府が28日、明らかにした中央防災会議の検討作業では3大都市圏での大規模水害を想定した広域避難の検討も始まる。市区町村長が避難指示の発令権限を持つ現行制度の見直しも視野に入っており、巨大地震対策と並ぶ防災態勢の転換点になる可能性もある。
「数百万人の避難が必要になれば市区町村長に避難指示を出してもらうのは無理かもしれない。知事や国が関与しないといけない」
河野太郎防災担当相は28日の記者会見で強調した。市区町村が避難指示の発令権限を持つ現在の仕組みは、昭和34年の伊勢湾台風を機に制定された災害対策基本法で定められた。
ただ、近年は激しい風水害が頻発し、昨年9月の東日本豪雨では茨城県常総市の避難指示が適切だったか疑問視されるなど首長防災の限界も指摘されていた。
内閣府によると、荒川右岸が決壊した場合、北区から都心にかけて約110平方キロ、地下鉄97駅が浸水し、死者約2千人、最大約86万人が孤立すると想定される。鉄道や道路は押し寄せた避難者で機能不全に陥り、避難中に浸水する恐れがある一方、とどまった住民は数日間にわたり孤立、救助を待つことになる。
荒川や江戸川、東京湾に囲まれ、7割が海抜0メートル地帯という江戸川区は最大約64万人の避難を想定する。昨年10月には連携して避難行動を取る必要があるとして周辺5区で対策協議会を設立。
座長を務める江戸川区の多田正見(まさみ)区長は「現状では多くの住民を広域に避難させる具体的な避難所や手段がない上、首長として避難指示などを発令する判断情報や基準が明確化されていない」との問題意識を示した。
中央防災会議の作業部会には都も参加予定で自治体と連携して実務面から課題を検証する。来年度末までに結論を出す見通しで名古屋や大阪の自治体にも参加を呼びかけているという。
群馬大大学院の片田敏孝教授(災害社会工学)は「従来の防災計画では破綻する恐れがある。市町村単位の対応には限界があり、広域での新たな枠組みが必要」と指摘した。