仕事で空港に出入りしていた関は出国手続き中、何人もの顔見知りと出合った。最後に旅券をチェックしたのが日頃、待合室でよく雑談する警察官の劉だった。心臓が飛びだすほど緊張したが、劉は静かに旅券を返してくれた。
カイロをへてドイツに亡命し、後に大学教師となった関は後にこう語った。
「無謀な逃亡が成功する確率は0・1%もなかった。劉さんたちはわざと見逃してくれたのではないか。文革中、あまりにも多くの人が冤罪と絶望の中にいたことを、彼らは知っているからだ」(敬称略)
=第2部おわり
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中国総局 矢板明夫が担当しました。