今回の参院選でも全国各地で「桃太郎」が展開されている-と聞いて、ピンとくる読者はどれほどいるだろうか。
たすきをかけた候補者が、のぼりを持った運動員たちとともに商店街などを練り歩き、有権者に直接支持を訴える。今ではすっかり定番になった選挙戦術を、多くの陣営関係者は「桃太郎」と呼ぶ。
もちろん、その由来はあの有名な昔話だ。おばあさんから持たせてもらった「きび団子」を分け与え、子分にしたイヌやサル、キジを従え、鬼退治に向かう「桃太郎」。その様子に似ていることから、名付けられた。
実はこの戦術、昭和30年代の大阪府知事選で、選挙の神様といわれた木船実氏が、「有権者とじかに接したらもっと効果があるのでは」と思いついたのが最初とされる。
それ以前はトラックを走らせ、辻々や広場で荷台から演説を行うだけのスタイルがほとんど。選挙戦の常識をひっくり返す戦術として注目を浴びた。
当初は「前例がない」と選挙管理委員会や警察当局も目をつけ、クレームがついたともいわれるが、公職選挙法は、車から降りての選挙活動を禁じてはおらず、一気に選挙の新常識として定着した。
今回の参院選で、早くも「桃太郎」を決行した陣営幹部は「候補者の人柄を伝えられ、大勢で回ると陣営の意気込みも伝えられる」と効果を強調する。
ただもちろん公職選挙法では、桃太郎のきび団子のような報酬を条件に、運動員を従えることは、一部を除き禁じられている。