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田中麗奈が死刑囚と獄中結婚する女を演じ…壮絶な接見シーンで新境地 『葛城事件』

 義父となった清に、「?私は人間に絶望したくないんです。死刑は絶望の証です。人間の可能性を根源的に否定する制度です」と訴え、暗い接見室で稔に「私はあなたを愛します」と語りかける順子。しかし、こわばった余裕のない表情で発するその言葉にはどこか無理があり、誰の心にも響かない。

 順子の背景は、まったくといっていいほど描かれない。難しい役所ではあるが、田中は絶妙な演技で、何らかのつらい体験から目を背けたまま生きる危うい女性を表現している。

 「あたしみたいな人間がそばにいれば、彼は必ず心を改めます。彼は今までそういう人に出会えなかっただけだから」-。彼女は、必死に自分が必要としていた人間になろうとする。しかし、一切の責任を認めず、「おれが一体何をした!」と悪態をつきまくる清と、接見室で罵声を浴びせる稔によって彼女の心はズタズタにされていく。

 そして終盤の接見室。死刑の早期執行の申し立てを決意した稔が、「おれ、これ以上こんな汚いところで無駄に暑いも寒いも味わいたくないんですよ」と順子に毒づく。言葉を失って沈黙した順子は、やがて、初めて心からの言葉を発し始める。

 田中の芝居は気迫に満ちた壮絶なもので、これを受ける稔役の若葉の演技も素晴らしい。このシーンは通しで一気に撮影されたもので、20テイク以上の撮り直しをしたという。

 デビューの頃から繊細な表現に定評があった田中だが、年齢を重ねて演技力を熟成。長く記憶したい名シーンとなった。

      (岡本耕治)

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