日中でも、波消ブロックに沿って陸に近づいて来る伊藤さんの様子はかすかにしか分からない。実際に密上陸を図る際には、人の出入りや船が少ない荒天の日の夜を狙うことが考えられるため、その場合はまったく姿は確認できないことがうかがえた。
伊藤さんは陸が間近になると、うつぶせで接近を図った。動画では確認しづらいが、このときナイフを浅瀬の砂地に差しながら進み、波に流されないようにしていたという。荒天時での上陸が通常のため、それを想定しての行動だった。
完全に陸に上がってから、伊藤さんはうつぶせの状態から、あおむけに体勢を変えた。体を休めているかのように見えたが、視覚や聴覚が制限されるうつぶせの状態から「五感を一番感知しやすい状況にするため」だという。すべての行動には、しっかりとした理由があった。