国語逍遥

(73)清湖口敏 麦の秋、竹の秋 子供のために葉を落とす

 春を待ちながら冬ざれの畑の下でじっと耐える麦の健気(けなげ)さや、つらい農作業のことも忘れて収穫に感謝する日本人の伝統的な心ばせなどが、一巻の通奏低音になっているような気がしてならなかった。「麦秋」というタイトルの力かもしれない。

 ところで同じ「秋」が付いていても、「竹の秋」となると季節は晩春である。このこともまた、どれほどの若者が知っていようか。多くの木々が秋に色づき、落葉するのとは違って、竹は3月から4月にかけて黄ばんでゆき、やがて古い葉を落とす。「竹の秋」と呼ばれるゆえんだ。

 万物が生気に満ちて溌剌(はつらつ)とする春に、竹は黄変する。地下茎から芽を出して伸びていく竹の子(筍)に養分を取られてしまうからだが、見方を変えればこれは、成長に必要な養分を少しでも多く竹の子に回してやろうと、親竹が自ら衰え、枯れるということにもなろうか。

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