22日に公示される参院選(7月10日投開票)で、連合傘下の電力総連と、民進党との溝が広がっている。大手電力会社などの労働組合が加盟する電力総連は「電力の安定供給に原発は必要」と主張する。これに対し、民進党は「即時ゼロ」を掲げる共産党と共闘するからだ。電力総連は今回、一部の野党統一候補に対する推薦を見送る。(九州総局 高瀬真由子)
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「民進党の小林ではなく、電力グループの代表として推してほしい」
17日、福岡市中央区。電力総連の九州支部にあたる「九州電力総連」の定時大会で、民進党現職の小林正夫氏(69)=比例代表=は、組合員の心中を慮り、こうあいさつした。小林氏は電力総連の組織内候補予定者でもある。
発言に先立ち、九州電力総連の久保友徳会長は「参院選は組織の力量を示す選挙。政党名は関係なく、個人名を書く選挙と割り切ってほしい」と呼びかけた。
両氏の発言の背景には、民進党の原子力政策に対する、組合員の募りに募った不満がある。
◆菅元首相へ憤り
電力総連と民進党の間にすきま風が吹き始めたのは、民主党政権時の平成23年3月に起きた東京電力福島第1原発事故がきっかけだった。
当時、首相だった菅直人氏は、事故対応の不手際が批判を集めた。その声を振り払うかのように、九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)の再稼働が直前に迫った同年7月、唐突にストレステスト(耐性検査)導入を打ち出した。
これによって再稼働は遠のいた。九電は4期連続の赤字に陥り、社員のボーナスはゼロになった。
「原発は電力を安定供給するための基幹エネルギー」と考える電力総連の組合員にとって、菅元首相の言動は理解できるものではなかった。原発停止の強行は、組合員の努力を否定することに等しかった。
電力総連は、全国232の単組で構成され、21万3千人の組合員がいる。今でも「菅元首相だけは許せない」という声は少なくない。
今年3月、民主党と維新の党が合流した民進党発足の過程にも問題があった。
綱領策定の途中で、維新側が主張した「2030年代原発稼働ゼロを目指す」という表現を盛り込んでいたのだ。当然、電力総連は猛反発した。
最終的に「原発に頼らない社会を目指す」の表現に落ち着いたが、電力総連の内部に「民進党候補への推薦を、感情的に納得できない人もいる」(関係者)状況となった。
だからこそ電力総連は、電力会社出身で、エネルギーの現実に詳しい小林氏を国政に送り込むため、全力を注ぐ。一方、チラシなどからは徹底的に「民進党」の名前を消した。
ただ、いかに民進党色を消したとしても、小林氏が獲得した票は、比例代表での民進党の議席拡大につながる。獲得した議席に、過激な「原発ゼロ」をうたう候補が座るかもしれない。
◆態度保留も
選挙区候補への対応も、電力総連にのしかかった。
電力総連はこれまで、旧民主党が公認し、連合が推薦した候補に、推薦を出してきた。しかし、今回の参院選は様相が異なる。
宮城選挙区(改選1)では、これまで民進党現職を支援してきた宮城県東北電力総連が、態度を保留している。共産党などとの野党統一候補となったことが理由だという。
東北電力総連の田口正信事務局長は「共産党から『自分らの支援があって当選した』と言われれば、(原発ゼロの)主張を考慮せざるを得なくなる。再稼働のスタンスが異なる共産と政策協定を結んだことに、職場の人たちは過敏に反応している」と語った。
仮に、立候補の段階で原発ゼロを主張していなくても、接戦となった場合、共産党員の1票を得ようと、同党の主張に理解を示す可能性もある。組合員にはそうした不信感が渦巻いているという。
九州の7選挙区でみると、電力総連の推薦は5人にとどまる。熊本と鹿児島の野党統一候補には、推薦を出さなかった。関係者によると、反原発色がにじむことが、推薦を出さない理由だという。
九州電力総連の幹部は「候補予定者の原子力政策を確認し、政策協定を交わして推薦した。当選後に手のひらを返される場合もあるので、信頼できる人であるか、しっかり見極めた」と説明した。
九州電力の社員は現在、玄海原発の早期再稼働を目指し、日々取り組んでいる。仮に参院選で野党側が勝利すれば、原発への逆風は強まる。電力総連はジレンマを抱えている。
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原発・エネルギー政策は有権者の関心も高い。各党の参院選の公約をみると、原発維持から即時停止まで、主張はさまざまだ。
自民党は原子力について「重要なベースロード電源」と明記した。公明党は新設を認めないとしたが、再稼働は安全性や立地自治体の理解を得て判断する。日本のこころを大切にする党も、安全性が確認された原発は再稼働し、エネルギーのベストミックスを実現するとした。
一方、民進党は党綱領に盛り込まなかった「2030年代原発ゼロ」を公約で掲げた。共産党や社民党は、原発ゼロや即時停止を訴える。生活の党と山本太郎となかまたちなども、脱原発を主張している。