かながわ美の手帖

山内龍雄芸術館

 ■キャンバスに「彫刻」、独自の精神世界展開

 キャンバスを削り、油絵の具を何層も重ねる独自の技法で抽象画を生み出した山内龍雄(1950~2013年)。その作品を集めた山内龍雄芸術館(藤沢市)が今春開館した。難解と評される山内の抽象画は、高い精神性で見た者に深い感動を与える。

 ◆具象から抽象へ

 「スーさん、俺の絵って絵画と呼んでいいのかな」

 長年支援していた画商の須藤一実(66)に、山内は生前よくこう話したという。

 「キャンバスに彫刻する」(山内)。自ら作った道具でキャンバスを紙のように薄くなるまで削り、その上に薄くした油絵の具を何層も重ねていく独特の技法は、20年かかって完成した。

 あまりに独特な技法によって生み出される作品の数々が、「絵画」として認められるのか。自己反芻(はんすう)しながら黙々と独自の世界を展開させていった。

 初期作品「一輪車を持てる人」(昭和59年、油彩、キャンバス、33・4×24・3センチ)は、道路工事で使う「ネコ車」という一輪車を持つ人が、茶系の画面の中に寂しそうに描写されている。完成までに6年を費やした。

 初期には人物など具象的な描写をしていたが、年を重ねるにつれ減り、意匠、模様のようなものに変化していった。

 ◆「毎日違う」

 「老賢者と少年」(平成4年、油彩、キャンバス、60・6×45・5センチ)は、その一例だ。

 一見すると、楕円(だえん)の中に何が描いてあるのか分からない。不思議なことに、眺めていると絵中央あたりに老人、左下には少年が見えてくるという。

 昨年11月、山内の回顧展を開いた東御(とうみ)市梅野記念絵画館(長野県東御市)の副館長、佐藤雅子(66)は「老人と少年が見える人も見えない人もいる。それでいいんです。私には見えましたが…」と話す。

 この絵を完成させた朝、山内は、須藤にこう電話したという。

 「大変だ。とてつもない像が出て来ちまった。はっきりと見えるんだよ、老人と少年が。(中略)おれは精神の原点を可視化してしまったんだ。これは描かれたものではなく、浮かび出てきたんだよ。無意識の中から…」(「山内龍雄 描かれた哲学」)

 そして自らの絵を「絵が毎日違って見える。見る度に変わる。まるで生命体のようだ」(同)と記している。

 佐藤は「緊張感ある美しい画面。これから30年後に理解される作品」と、その偉大さを改めて強調する。=敬称略(柏崎幸三)

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 山内龍雄芸術館(藤沢市羽鳥5の8の31)は、金・土・日・月曜日と祝日に開館。入館料は一般500円、大学生と専門学校生250円、高校生以下は無料。問い合わせは同芸術館(電)0466・33・2380。

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