「社会での更生期待できる」
公判では「認知症の影響」を強調する弁護側と、「認知症とする医師の診断は信用できず、被告の健全な意思決定で犯行が行われている」と指摘する検察側が激しく対立した。
裁判所はどう判断したのか-。
長井秀典裁判長はまず、女性を診察した医師が「女性が前頭側頭型認知症の症状で衝動を抑制しづらい状態にあった」とした証言について、「検査結果や行動傾向の分析など複数の根拠を示して説明しており、信用できる」と判断。「認知症が一定の影響を及ぼしていることは否定できず、非難はある程度、限定されるべきだ」と示した。
また、犯行態様を「商品を上着のポケットや脇に隠して店外に持ち出す比較的単純な手口」と指摘。被害の面は「額は約800円にとどまり、弁償もされ、違法性は特別に高いものではない」と位置づけた。
その上で、女性が医療や介護の支援を受けると公判で供述したことや、親族も女性の面倒をみると約束した点を踏まえ、「社会での更生が期待できる」とし、執行猶予を付した。
「あなたがしたことの責任はよくよく感じてください。今後は絶対にものを取ることのないようにしてください」
裁判長が最後にこう説諭すると、女性は深々と頭を下げていた。
地域社会との関わり重要
実は今回の事件と同じ前頭側頭型認知症が影響したとされる事件は過去にも起きている。
24年に神戸市内のスーパーで食品を万引したとして窃盗容疑で逮捕された70代の女性は、懲役1年、執行猶予4年の有罪判決を受けたながら、同年11月に再び逮捕された。1審は実刑判決を受けたが、2審では執行猶予付きの有罪判決を宣告され、確定した。