「もう1回だけ、執行猶予ですからね」。裁判長は諭すように女性被告に語りかけた。万引したとする窃盗罪で執行猶予付き有罪判決を受けたにもかかわらず、執行猶予期間中にまたもや万引事件を起こしたとして窃盗罪に問われた神戸市兵庫区の女性(61)に対し、神戸地裁は4月12日、懲役1年、保護観察付き執行猶予5年(求刑懲役1年6月)の有罪判決を言い渡し、確定した。執行猶予期間中の再犯で、再び猶予判決が言い渡されるのは珍しい。〝温情判決〟が下されたのは、女性が裁判前、感情や行動を抑制できなくなる「前頭側頭型認知症」と診断されていたためで、司法は刑務所でなく「社会での更生」という苦渋の選択をした。常習窃盗犯と見分けがつきにくい同認知症の患者を、社会はどう受け入れていけばいいのだろうか。
上着ポケットにマヨネーズ
昨年9月11日、神戸市兵庫区内のスーパー。女性はリンゴとマヨネーズをおもむろに買い物かごに入れた。店内をきょろきょろと見渡すと、従業員や他の客から死角になっている場所に行き、上着のポケットにしまい込んだ。
さらに別の食品コーナーに行くと、パンと和菓子を同じように買い物かごに入れ、周囲を確認した上でまたポケットに入れた。最後に、歩きながら手に取った菓子も、すばやく懐へ忍ばせた。
計5点(計797円)の会計を済まさないまま女性は店の外に。しかし、店の保安員は一部始終をしっかりと目撃していた。
「ポケットの中、どうしたんですか」
保安員の問いかけに、女性は「お金、払います」と返したが、店側の通報を受けた警察官に窃盗容疑で現行犯逮捕された。