熊本地震5日間で停電解消も電力自由化「殴り合い」で結束力低下も 不可侵崩壊で復旧力維持に懸念

熊本地震被災地の復旧作業に駆けつけた関西電力グループの作業員=4月20日、熊本県阿蘇市(山田哲司撮影)
熊本地震被災地の復旧作業に駆けつけた関西電力グループの作業員=4月20日、熊本県阿蘇市(山田哲司撮影)

 熊本地震では、九州電力の復旧作業に全国9電力会社から応援が入り、4月16日の「本震」から5日間で、全世帯の電気が復旧した。電力会社間の結束の強さと、過去の災害で積み重ねた復旧ノウハウを発揮した格好だが、その裏側で関係者の胸中には「電力自由化や、発送電分離後もこの協力態勢が維持できるだろうか」との心配が渦巻く。(九州総局 高瀬真由子)

 熊本地震では48万世帯が停電した。九電はグループ計3600人態勢で対応した。担当者は昼夜を問わず作業にあたり、4月20日、停電は全域で解消した。

 この停電からの「復旧力」は、日本が世界に誇るレベルだといえる。

 大手電力会社でつくる電気事業連合会(電事連)によると、1世帯あたりの年間停電時間は、イタリアやフランスが50~85分、米カリフォルニア州は130分だ。これに比べ、日本は「20分」と格段に短い。

 電事連は「送配電線の整備や拡充、迅速な復旧作業などの努力によって、停電が少なく、復旧も早いという良質な電気を届けている」と説明した。

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 だが近い将来、「復旧力」が低下する恐れがある。全面自由化と、発送電分離という電力システム改革の影響だ。

 熊本地震では、北海道から沖縄まで全国9電力会社が計600人超の作業員と機材を、余震で危険を伴う被災地に送り込んだ。復旧隊は、九電と連携を取りながら、被害が大きかった熊本県阿蘇市、南阿蘇村などで復旧作業に取り組んだという。

 「非常用発電機車を(出せる)ぎりぎりまでご協力いただいた会社もあった。自分の地域で何かあったら大変なことになるのに、快く派遣していただいた」

 九電の瓜生道明社長は4月28日の記者会見で、各社に謝意を述べた。

 迅速な対応の裏には、日頃からの協力関係がある。これまで10電力会社は地域ごとに電力販売のエリアが定められ、いわば「相互不可侵」状態にあった。そこで、燃料調達や設備の安全対策などさまざまな課題に、連携して取り組んできた。

 しかし今年4月、電力販売に競争原理を導入しようと、電力小売りの全面自由化がスタートした。

 東京電力は関西圏と中部圏で、九電や中部電力などは首都圏で、それぞれ家庭向けに越境販売を開始した。相互不可侵が崩れ、顧客を奪い合う関係となった。

 これまで通りの連携関係を維持できるか。ある電力関係者は「エリアで棲み分けてきたからこそ、全力で助けることもできた。片手で殴り合いながら、もう片方で手を握れるか…。非常時とはいえ、心情的に難しいところもあるだろう」と語る。

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 さらに、平成32年に大手電力から送配電部門を切り離す「発送電分離」が行われる。

 電線や電柱、鉄塔などの復旧作業は、分離された送配電事業者が担う。懸念の一つは、送配電事業者のマンパワー不足だ。

 地震や台風で広いエリアで停電が起こった場合、電力会社は社員やグループ総掛かりで復旧作業にあたってきた。現場の作業者はもちろん、顧客からの電話対応や情報発信も欠かせない。被害に遭った設備を別の場所に新設する場合は用地交渉など、業務は多岐にわたる。

 分離された送配電事業者は当然、規模は小さくなる。こうした作業をすべて単独で行えるか、懐疑的な見方も根強い。

 「発電や送配電、顧客対応の営業など、連携するにしても、同じ会社の時と比べれば、円滑にいかない可能性もある」。電力会社幹部は心配する。

 マンパワーに加え、資金力も懸念材料となる。

 災害からの復旧には、数億から数十億円という莫大(ばくだい)な費用がかかる。同様に、災害に強い設備とするには、巨額の事前投資が欠かせない。

 例えば、万一の停電リスクに備え、あらかじめ送電線を2本にしておくのは、見方を変えれば過剰投資といえる。財務に余裕があれば投資は可能だが、会社の分割や競争によって体力が消耗すれば、こうした不要不急の出費は切り詰めざるを得ない。

 すでに発送電分離に踏み切った米国などでは、設備維持への投資が不十分となり、停電そのものの増加や、復旧力が落ちたとの指摘もある。

 電事連の八木誠会長(関西電力社長)は、昨年6月の参議院経済産業委員会で「発電側と送電側が協調するルール策定など、分離を補完する仕組みが不可欠」と訴えた。

 とはいえ、自由化はすでに始まり、発送電分離も既定路線だ。災害大国・日本においては、電力システム改革後も、災害に強いインフラを構築しなければならない。

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