産経抄

かわいさ余って…ゆがんだファン心理、今も昔も 5月24日

 「美空ひばり受難」。昭和32年1月の小紙に、こんな見出しの記事が掲載されている。すでにトップスターの地位にいた美空ひばりが、劇場で出番を待っていたところ、顔に塩酸をかけられたのだ。

 ▼幸い塗っていたドーランのおかげで、火傷(やけど)は3週間で完治する。犯人は同じ19歳の少女だった。熱狂的なファンだった彼女は、ひばり邸に何度も電話して面会を求め、家人に断られていた。「どんなに好きになっても見向きもしてくれないひばりちゃんが、憎くなりました」。警察で涙ながらに動機を語ったという。

 ▼「かわいさ余って憎さが百倍」。ゆがんだファンの心理は、今も昔も変わらない。東京都小金井市の雑居ビルで、アイドル活動をしていた女子大生(20)が、刃物で刺されて重体となっている。「以前、プレゼントを贈ったが送り返され、腹が立って刺した」。現行犯逮捕されたファンの男(27)の供述にはあきれ果てる。

 ▼塩酸事件について評論家の大宅壮一は、ファンの熱狂をあおるラジオとテレビの責任を指摘していた。スターに代わって、アイドルという言葉が広く使われるようになったのは、1970年代からだ。その後も長く、アイドルとファンをつなぐのは、テレビの役目だった。

会員限定記事会員サービス詳細