田中靖人の台湾情勢分析

馬英九前総統はなぜ知日派から反日に転じて「有終の美」を自ら捨ててしまったのか?

 誤りが多数指摘されている「ザ・レイプ・オブ・南京」の著者アイリス・チャン氏(故人)の両親を米国から台北に招待してチャン氏への褒章を自ら授与するなど「歴史の真相」とはほど遠い行動もあり、過去の日本を批判する言葉の端々に「恨みをあおるためではない」という説明を額面通り受け取れない辛(しん)辣(らつ)な表現が並んだ。こうした姿勢にも、日本側には不快感の一方で、「16年1月の総統選を見越し、国民党の核心的な支持者層に訴えるためだ」(研究者)という見方もあった。

 ただ、馬政権は15年5月、東日本大震災を機に導入した福島県など5県産食品の輸入禁止に加え、全都道府県産の食品に産地証明書の添付を義務づける規制強化に踏み切った。台湾当局の関係者によると、日本側からの「合理的でない」との働きかけに応じて外交当局が規制強化の回避を探ったのに対し、馬総統が「日本に思い知らせてやれ」と実施を指示したという。事実であれば、そこには理性的な政策判断を超えた感情論を見ざるを得ない。

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