熊本地震1カ月

(5)熊本城の再建なくして被災地の復興なし

11日に公開された熊本城内の立ち入り禁止区域。崩落した石垣の奥に天守閣が見える(村本聡撮影)
11日に公開された熊本城内の立ち入り禁止区域。崩落した石垣の奥に天守閣が見える(村本聡撮影)

 ■「復旧過程を公開」アイデアも浮上

 熊本地震の本震から1カ月。熊本城(熊本市)は無残な姿をさらしている。地元のシンボルだけに、早期復旧を望む声は大きい。

 「復旧には、かなりの時間が必要なものもある。地元の専門家の意見を交え、全力で取り組みたい」

 今月10日、文化庁の村田善則文化財部長は、地震で傷ついた文化財の修復・復旧を議論するプロジェクトチーム(PT)の冒頭、こう挨拶した。

 市熊本城総合事務所によると、熊本城では、国の重要文化財13件を含む建造物32件すべてに被害が認められ、石垣も53カ所で崩れた。

 PTは今後、江戸時代の古絵図や明治時代に撮影された写真などを基に、復旧計画を策定し、復旧の具体的な優先順位などを示す。初会合では、地元の希望を採り入れようという意見も出た。

 熊本城は400年前、戦国武将の加藤清正が築城した。城主が細川家に替わっても、「清正公の城」として親しまれた。

 「熊本城の再建がなければ、熊本の復興はない」

 安倍晋三首相は4月23日、蒲島郁夫知事との会談で、こう発言した。

 それでも、熊本城復活には数々の課題が待つ。まずは復旧に必要な技術だ。

 何らかの理由で文化財が傷ついた場合、元の状態に戻すのが大原則となる。見た目だけでなく、石垣の石や、柱の木材など、使える材料はすべて元の物を使う。折れた材木は、できるだけ同種の木で接ぎ、再利用する。工法も往時の技術を再現する。

 本物としての価値を損なわないためには、こうした手法が欠かせない。

 熊本城の復旧も、まず、倒壊した建造物の材料などの回収から始まる。

 技術面で最大の難関となりそうなのが、「武者返し」で有名な石垣だ。

 市熊本城総合事務所の初代所長、今村克彦氏(76)は「復旧を機会に、後世に石積み技術を伝承していくためにも、いろんな石工集団に参加してもらうのがよい」と提案する。

 石工集団からも賛同の声が上がる。戦国武将が競って起用した近畿の石工集団「穴太衆」の15代目で、「粟田建設」(滋賀県)の粟田純徳社長(47)は「武者返しは、下が緩やかで上が急勾配に反っており、相当難しい。それだけに、ぜひ挑戦したい」と張り切る。

 復旧に必要な資金も、大きな課題となる。

 例えば石垣造りは、1平方メートル当たり30万~50万円が相場だ。崩壊面積が3千平方メートルと仮定すれば、9億~15億円程度かかる。

 広島大の三浦正幸教授(城郭史)は、名古屋城の復元計画などを参考に、熊本城の復旧費用を200億~250億円と試算した。

 熊本市の大西一史市長は12日の記者会見で「工事の金額、期間は想像を絶するものだ。国家プロジェクトでやってもらわないとできない」と述べ、国の直轄事業にするよう政府に求めた。これに先立ち10日、馳浩文部科学相も、文化財修復に向け、地元自治体を財政面で支援する新たな措置を検討する必要があるとの認識を示した。「特別立法も一つの選択肢だと思う」と述べた。

 ただ、複雑な問題もある。熊本のシンボルであり、住民が真っ先に思い浮かべる天守閣は、戦後に復元された鉄筋コンクリート造りであり、文化財ではない。三浦氏の試算は、この天守閣を木造で新築することを前提としている。この費用まで、国費で進めることへの批判も予想される。

 資金集めに地元も動き始めた。熊本市は4月21日、「熊本城災害復旧支援金」制度を設け、全国から支援金の募集を始めた。5月12日現在で2800人から1億160万円の寄付があったという。

 費用に加え、長い年月がかかるのは間違いない。

 熊本市熊本城調査研究センターの網田龍生副所長(51)は「城を復旧するのに20~30年はかかるだろう。城がよみがえる過程を市民にはぜひ、お見せし、熊本城への理解を深めてもらう仕掛けも作りたい」と語った。

 世界遺産・姫路城(兵庫県姫路市、国宝)では平成21~26年度に実施した「平成の大修理」中に、修理風景を常時公開する施設「天空の白鷺」を設置した。

 城の内部と、修理の様子を間近に見られる施設は高い人気を誇り、22年3月から25年1月までに、計184万人が入館した。職人側も「見られることで、張り合いが出る」と好評だったという。

 本震後、加藤神社の境内には崩れた石垣が散乱した。その1つに約40セントの「観音菩薩」が彫られているのが、見つかった。

 禰宜の坂梨節男氏(63)は「400年以上も前の石工さんが『災いがないように』との思いを込め、彫ったのだろう。この大災害時に『熊本を守ろう』との思いで、観音様は出現したのではないでしょうか」と語った。(おわり)

 =この企画は村上智博、谷田智恒、中村雅和、高瀬真由子が担当しました。

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