「私はまだ、ナチがやったアウシュビッツ殺人工場の現場を見たことはない。だからこの万人坑のような恐ろしい光景は、生涯で初めてだった」
白骨死体の写真も朝日の紙面に掲載された。
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「万人坑」に強い疑問を抱いた田辺は調査を始めた。旧撫順炭坑、旧南満鉱業の関係者らにアンケートを送付。回答した約60人と面会するなどしたところ、全調査対象者が次のように答えた。
「万人坑を見たことがない」「万人坑という言葉も知らなかった」
田辺は平成2年、雑誌「正論」(8月号)で「万人坑はなかった」とする調査結果を発表した。これに本多は「少数のアンケートで断定するのはおかしい」と反論した。
双方の主張の食い違いを受け、旧撫順炭坑関係者らでつくる東京撫順会は約1000人の全会員にアンケートを送付した。469人から得た回答を精査し、同会は「強制労働による犠牲者の人捨て場としての万人坑がなかったことははっきりした」と結論づけた。