静岡・桜ケ丘病院の「津波浸水区域」移転で大論争 利便性か防災か

 静岡市清水区の基幹病院、桜ケ丘病院の移転問題が迷走している。移転先探しを依頼された静岡市が大地震の際に津波の浸水が想定される同市役所清水庁舎を有力候補地として挙げたことから、地域住民らが反発。川勝平太知事も市側に再考を促すなど、交通の利便性を取るか、防災を重視するかで県を挙げての大論争に発展している。

 ◆通いやすい場所

 桜ケ丘病院は独立行政法人「地域医療機能推進機構」(JCHO)が運営。開設以来、増改築を続けてきたが建物が手狭な上、最も古い部分では築50年以上と老朽化が進んでおり、約20年前から移転による建て替え構想が浮上していた。

 当初、病院を運営していた社会保険庁は15年前に移転候補地として同区大内新田の農地約2万9千平方メートルを購入。しかし、平成26年に病院を引き継いだJCHOはお年寄りによる通院などに配慮し、公共交通機関で通いやすい別の土地を探すことを決め、昨年5月に市に適地の選定を依頼していた。

 このため、市は鉄道の駅から近く、それなりのスペースを確保できる土地として清水庁舎をリストアップ。今年3月の市議会で市の幹部が有力候補地として清水庁舎の名前を挙げたことから、一気に論争に火が付いた。

 ◆地域住民ら反発

 清水港から数百メートルの場所に位置する清水庁舎は海抜2メートルほどで、東日本大震災を踏まえて策定された県の第4次地震被害想定では最大1・4メートルの浸水が起きると予想されている。このため、市議会での説明を聞いた地域住民が「津波被害の恐れがある地域にどうして病院を持っていくのか」と一斉に反発。地元の連合自治会が移転候補地を現在の病院に近い清水桜が丘公園に改めるよう求める要望書を提出する事態に発展した。

 市は「公園を移転先とする場合は都市計画の用途変更など課題が多い」と否定的だが、この住民側の要請に同調したのが川勝知事だ。3月の定例会見で移転先について「人の命の問題だから、清水桜が丘公園が望ましい」と語る一方、都市計画の問題についても「都市公園法の問題をどうクリアするかについては協力する」と言い切った。

 ◆県も市の対応に難色

 桜ケ丘病院は清水区に3つある市指定の救護病院の一つで、県は「災害時に治療を受けなくてはならない人を運ぶ救護病院を今の安全な場所から津波が来る場所に移すのは全国的にも例がない」と市の対応に難色を示す。今の病院は海抜約8メートルで、津波浸水想定区域の外にある。

 市は防潮堤の整備により清水庁舎への浸水を0・1メートルに抑えられるとして現在の計画の優位性を強調するが、同市の田辺信宏市長は、「清水桜が丘公園も候補の一つ。さまざまな選択肢があっていい」と発言を微妙に軌道修正させ始めた。

 市は3月末までにJCHOに回答する予定だったが、これを断念。田辺市長は「市として移転候補地の情報提供はするが、最終的に決めるのはJCHOだ。市としては期限を区切らずに進めていく」としており、決着までにはなお時間を要しそうだ。