野口裕之の軍事情勢

日本による豪州への潜水艦売り込みを阻止したのは仏が誇る通信傍受網だった!? 貧乏くじを引いたのは…

フランス版エシュロン

 中国とフランスが経験した軍改革の起点は共通する。米軍が湾岸戦争(1991年)の《砂漠の嵐作戦》で見せつけた、軍事衛星や盗聴施設を含め、超高度な科学技術が支える情報収集→分析→攻撃が一体となった戦術は、仏中ともに衝撃を受けた分野であった。結果、フランスが旗を振り、欧州各国とも次々と軍事衛星を打ち上げる。かくして、世界的通信監視網《フレンシュロン》が本格的に始動する。

狙いは産業スパイ

 当然、フランスの情報収集は、伝統的に利権を有する北アフリカや中東の軍事・テロ関連を念頭に置く。一方で、欧米列強は冷戦構造崩壊の前後から、安全保障上の目的に加え、産業スパイ面もそれまで以上に強化していく。米中枢同時テロ(2001年9月11日)やパリ同時多発テロ(2015年)の勃発など、ウエートは時々で揺れ動くが、各国に先駆けたフランスの産業スパイ重視は不動の位置付け。中でも、17万人の雇用を抱える主要財源の一つ・軍需産業の発展は国策で、同盟国・米国に対しても、軍需産業情報奪取をためらわぬ。その中核がフレンシュロンだ。米国や英国、豪州、ニュージーランド、カナダで構成される同種の監視網《エシュロン》に比べ、性能・規模は劣るが、決して侮れない存在に進化しつつある。

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