電車の向かいの席に、就活生とおぼしき女性が座っていた。ここではそんなに背筋伸ばさなくていいよ、と思った。
私の就活はどんなだっただろう。はじめのうちは、スケジュール帳がどんどん埋まり、忙しさを嘆きつつも、会社説明会でのまぶしい若手社員との大人な会話に酔い、希望に満ちあふれていた。
しかし、選考が進むにつれ状況は一変した。「こんな仕事をしたい」と言えば、他の仕事は嫌なのか、と問われ、また別の選考で「どんなことでもします」と言えば、自分の意志はないのか、と言われた。
エントリーしていた会社からは次々と今後の活躍を祈られた。「こんな憧れの仕事をしたい」が、徐々に「とりあえす内定が欲しい」に変わり、しまいには「どこでもいいから採用してくれ」に変わった。
とうとう選考に挑んだ全ての企業から不採用通知をいただき途方に暮れた。自分のプライドの高さと将来設計の甘さをリーマンショックに転嫁し、日本の就活システムに疑義を唱えた。
と、無残なありさまだったものの、最終的に今は職に就けている。今の勤め先は、面接官とリラックスして気持ちよく会話ができたところだった。実際そんなものかもしれないし、そのことを世間では「縁」と呼んでいるのかもしれない。電車のあの子はどんな就活になるのだろうか。
新年度、新人が職場にやってきたら、今度は直接声をかけよう。「そんなに背筋伸ばさなくていいよ」
足立康春 28 会社員 大阪府豊中市