「なんでそんなことをしたのか、今から考えるとバカだったなと思うけど、これはもうそのときの心理状態とか環境とかいろんなことがあって、自分でそういうものに走ってしまった」「過去のものすべてを失って刑を受けて自分で償ってきた。出てきて、またゼロから今現在までに至っている。できることなら自分はそういう苦しみ、痛みのわかる人間でありたいな」
2年4月という実刑判決。プロのマウンドで築いてきた地位も名誉も失いかねない重い「代償」だった。刑期をまっとうした江夏は二度と同じ過ちを犯さないと良心に誓った。「失敗を犯しても必ず更正できる」ということを自ら示し、球界の表舞台に這い上がってきたのである。
現在、野球評論家としての江夏が最も大切にするルールが「他人を裏切らない」という大原則だ。「情報源を持っている人間を大切にすることが、ひいては貴重な情報を得ることにつながる」。選手時代は球団の監督・コーチに裏切られ、引退後は図らずもファンや関係者を裏切ってしまった江夏の言葉だけに説得力にあふれる。