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先日、記者会見を行った。脳の進化についての新しい証拠が見つかったのである。
脊椎(せきつい)動物の脳は、母体中で発生してくる間に、一定の基本形を示す。その形はヒトやマウスにもニワトリにも、果てはサメの発生にも共有され、多くの動物が同じ祖先の発生プログラムを踏まえ、それぞれに特殊化してきたことが分かる。
脳の基本型も、あるとき一気にできたわけではなく、進化のどこかで成立したはず。そこで、ヤツメウナギやヌタウナギという、脊椎動物でありながらわれわれとかけ隔たれた円口類の脳発生を観察する意義が生ずる。
こんなニョロニョロした生き物が好きで研究しているわけではない。それを見ることによって解きあかされる謎が興味深いのだ。そして、円口類の脳を入念に観察した結果、ヒトの脳と同じ基本型が確認できた。ならば、脳の基本型の起源は、円口類の生まれた5億年以上前にさかのぼる。これが、データから導かれる推論である。
もし、その基本型がヤツメウナギにないということになったら、その起源は、われわれがサメと別れた5億年から4億年前のどこかということになる。
この発見の何が興味深いのか、記者たちに伝えるのが難しかった。1億年とか数千万年という時間は長いのか、短いのか。進化史についてのバックグラウンドなしに、いきなりその実感を伝えるのは難しい。そこで、いろいろと考えた末に、これからはこういう風に説明したらどうだろうかと思いついた。
例えば、「本能寺の変」が実際より3年前に起こったらどうかと考える。ほんの少しのズレでも、それが歴史を大きく変えてしまうことが分かる。