キヤノンによる買収額は約6655億円で当初予想されていた4000~5000億円を大幅に上回った。東芝はこの売却益を、一刻も早く手に入れたい事情があった。2月時点の予想では平成28年3月期は7100億円の最終赤字で、3月末時点の自己資本比率は2.6%と危機的な水準に落ち込む見通しだった。もともと、優良子会社を泣く泣く売却する決断を余儀なくされたのも、「債務超過」という、企業の存続すら危ぶまれる事態を回避したかったからだ。
このため、両社は奇策を用いた。弁護士や会計士が取締役を務める「MSホールディング」という会社を設立し、その傘下に東芝メディカルの株式をいったん、移す。キヤノンは先に買収資金を払い込み、各国当局の承認が降りたら東芝メディカルを子会社化するという手法だ。資本金わずか3万円のMSホールディングは、「独立した第三者」(東芝)という建て付け。東芝の室町正志社長は後日の会見で「キヤノンからすばらしい提案があった」と感謝の意を表した。