追悼・夏樹静子さん

作家・森村誠一氏 梅香る「同期の桜」の戦友・病友であり「永友」だった…

社会派、ロマンチシズムなど幅広いミステリー作品を発表した夏樹静子さん=平成19年、東京都内
社会派、ロマンチシズムなど幅広いミステリー作品を発表した夏樹静子さん=平成19年、東京都内

 作家生活五十年、夏樹静子さんとは「同期の桜」でした。デビュー後、間もなく夏樹さんが私の仕事場へ訪ねて来られました。戦場のように乱雑なデスクの上に針金や紐(ひも)を張りめぐらせ、重要な資料を吊り下げていました。

 資料の海にまぎれ込まぬようにとの私なりのチエでしたが、夏樹さんは大変興味を持たれ、「私も洗濯した資料を失わないように頭の上に吊るわ」とおっしゃった。私は「洗濯」と「選択」を取り違えたのですが、その時の夏樹さんの表情は今でも忘れられません。窓から梅の香りがひときわ濃く香っていました。梅がいつの間にか「同期の桜」となっていました。

 ほとんどすべてのパーティーでも一緒になり、話題が尽きませんでした。夏樹さんと話したそうな多くの出席者を無視して、私は彼女を独占していました。

 そんな作家仲間の無二の親友が3月19日に急逝されたのを聞いて愕然(がくぜん)としました。夏樹さんとはほぼ同時期に作家デビューし、日本推理作家協会賞を昭和48年に同期受賞。授賞式で2人並ぶと、選考委員の菊村到さんから結婚式みたいだと祝福され、とても嬉しかったのをよく憶えています。

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