iRONNA発

元少年Aの「性的サディズム」は本当に解消されたのか 立正大学文学部教授・小宮信夫

多彩なメニューで柔軟な対応を

 この視座の移動は、非行少年の処遇はワンパターンであってはならず、多様なバリエーションを用意すべきことを意味する。なぜなら、決定因子は少数だが、危険因子は多数だからだ。

 例えば、日本には、犯罪原因論が当然の前提とした、国家と加害者を主役とした「刑事司法」しか存在しないが、西洋諸国には「修復的司法」と呼ばれるもう一つのシステムが存在する。そこでは、被害者、加害者、そしてコミュニティという三者間の人間関係の修復を目指し、被害者と加害者が直接に話し合い、裁判官ではなく、コミュニティが話し合いをまとめている。

 システムの外に被害者が置かれていては、被害者の心の傷を癒やすこともできなければ、被害者の苦痛の大きさを犯人に気づかせて犯人を改心させることもできない、というのが制度導入の理由だ。

 また、サウスカロライナ医科大学のスコット・ヘンゲラーが開発した「多重システム療法」(Multisystemic Therapy)も、海外で高い評価を得て実践されている。そこでは、少年の周囲に焦点を合わせ、親のエンパワーメント(能力強化)や、友人・地域のサポートネットワーキング(支援人脈づくり)が図られている。

 危険因子を抱えた少年を支援しても、その周囲の人が望ましくない行動をとっていれば、それがコピーされ、支援の効果が消されてしまう、というのが手法導入の理由だ。

 日本でも、非行少年の性格や境遇は千差万別だ。それに伴って、犯罪の動機や原因も千種万様である。治療法や支援策が非行少年の個別のニーズにできるだけ合うように、処遇メニューの多様化が必要ではないだろうか。少年法をめぐる議論の中に、このことも取り込んでいただきたい。

小宮信夫

立正大学文学部社会学科教授。1956年、東京都生まれ。ケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科修了。法務省、国連アジア極東犯罪防止研修所などを経て現職。専攻は犯罪学。地域安全マップの考案者。現在、警察庁「持続可能な安全・安心まちづくりの推進方策に係る調査研究会」座長、東京都「地域安全マップ指導者講習会」総合アドバイザーなど。主な著書に『犯罪は予測できる』(新潮新書)、『なぜ「あの場所」は犯罪を引き寄せるのか』(青春新書)、『犯罪は「この場所」で起こる』(光文社新書)など多数。

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