【モスクワ=黒川信雄】ロシアと北朝鮮がこのほど締結した不法入国・滞在者の引き渡し協定に、国連やロシアの人権活動家から批判の声が上がっている。本国で迫害が確実視される脱北者の強制送還を促すもので、人道上の問題が極めて大きいからだ。協定は北朝鮮が核実験で国際的な非難を浴びるさなかに結ばれており、ロシア外交のゆがみも浮き彫りになっている。
新協定は2月2日、北朝鮮高官が訪露し調印された。相互に不法入国・滞在者を本国に送還する内容だが、実質的にロシア国内の脱北者の強制送還が主眼となっている。
ロシアに滞在する北朝鮮国民は約3万3000人おり、その多くは極東地方などで森林伐採や建設、農作業に従事する労働者とされる。現場からの移動の自由はなく、労働環境は「ラーゲリ(収容所)」などと揶揄される。賃金の大半は北朝鮮政府が徴収するうえ食料事情も劣悪で、脱走を図る者が後を絶たないという。
脱北を望む労働者が北朝鮮本国への強制送還を免れるには、露当局から難民認定されるか、一時亡命を認められるなどの必要があるが、露メディアによると2004年から14年までに難民認定を申請した北朝鮮国民211人のうち認められたのはわずか2人で、一時亡命も申請者170人中、認定は90人にとどまった。今回の協定で、そういった申請自体をためらう労働者が増えることは想像にかたくない。