鑑賞眼

心を打つ舞踊への愛と献身 ハンブルク・バレエ団「ジョン・ノイマイヤーの世界」

ノイマイヤー本人も出演し、その偉大な足跡を振り返った(長谷川清徳撮影)
ノイマイヤー本人も出演し、その偉大な足跡を振り返った(長谷川清徳撮影)

 通常、ガラとは、全幕の見せ場や小品を取り集めた公演だが、この特別ガラは12作品を連繋(れんけい)して、舞踊界の巨星、ノイマイヤーの人生をつづる。バレエ団が一丸となって、その広大で深遠な芸術世界を余さず伝えた。

 幕開きに振付家本人が登場する趣向が意表を突く。米国での少年時代、ミュージカル映画の思い出語りが「バーンスタイン・ダンス」の抜粋を導入し、初レッスンの幸福な記憶はバレエ史へのオマージュである「くるみ割り人形」に結晶する。

 日々の踊りと振り付けの探求は、「ヴェニスに死す」「ペール・ギュント」が描く自己探求の旅での出会いと別れのドラマに重なる。だが、生の孤独は、無条件の愛と魂の救済の喜びを謳(うた)うバッハ「クリスマス・オラトリオ」の美しい群舞に癒やされ、昇華される。本人の声とノイマイヤー役のダンサーが各作品をつなぐ。

 後半は、偏愛する舞踊家の生涯に着想した「ニジンスキー」に始まり、多様な愛の形を語る。男女の愛を描く「ハムレット」「椿姫」、そして、畏友のベジャールにささげた男性デュオは、ダンスで結ばれた人々の愛と連帯が、困難な芸術探求の力だと暗示する。そして、ソリストの妙技と幾何学的な群舞が溶け合う荘厳な「マーラー交響曲第3番」の終幕で、舞台手前を通過する理想に遠くで手を伸ばす男は、ノイマイヤー自身にほかならない。

 作品個々の感動に加えて、振付家、ダンサーの人生をかけた舞踊への愛と献身が心を打つ。忘れ難い夕べとなった。8日、上野の東京文化会館。(舞踊評論家 岡見さえ)