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李香蘭主演の映画『私の鶯(うぐいす)』(昭和18=1943年、東宝・満映、大佛(おさらぎ)次郎原作、島津保次郎監督)は不思議な作品である。
舞台は、満州・ハルビン。実の父親と生き別れになった日本人の少女(李香蘭)が、ロシア革命(1917年)から逃れてきた元ロシア帝室劇場歌手に育てられるというストーリー。セリフは、基本的にロシア語(日本語字幕)だ。
見どころは、異国情緒満載のハルビンの様子だろう。スンガリー(松花江)をゆく外輪船、そびえ立つロシア正教会の尖塔(せんとう)、きらびやかなドレスで着飾って劇場へ行くロシア婦人…。映画には本物の白系ロシア人(革命で社会主義化したソ連を嫌って国を出たロシア人)の一流歌手が出演し、演奏は名門のハルビン交響楽団が担当している。
キャスト・スタッフとも錚々(そうそう)たる顔ぶれによる音楽映画の大作だが、内容を含めて、およそ戦時下には似つかわしくない。なぜこの映画が作られたのか?