書評倶楽部

芝居の匂いがわき立つ…『かぶき曼陀羅』河竹登志夫著 興福寺貫首・多川俊映

 その後、歌舞伎より能狂言に興味を持つようになって、歌舞伎は皆目みなくなってしまったが、こんなにすてきな歌舞伎にまつわるエッセー集に早く出会っていたら、あるいは、わが観劇も様変わっていたかもしれない。

 どれか一編、といわれたら迷うが、「マルセル・マルソーと歌舞伎」を選びたい。

 〈だいたい演劇を演劇たらしめている究極の要素は模倣動作だ。それだけで成り立っているのが、パントマイム、黙劇である。字幕や活弁をはずせば、往年の無声映画もその一種といえよう。マルソーがチャップリンに傾倒したのも、当然だと思う〉

 と述べて、その末尾-。パリのとある小さな劇場での公演後、マルソーに会いたくなって、〈日本では公用のほか楽屋へ行かない私が〉楽屋を訪れた、とある。もって、楽屋の意味を解すべし、か。