震災5年

復旧・復興の現在地(1)液状化の浦安 今春から一部で地盤改良

 ■「価値観の違い」全員合意に高い壁

 四季折々の花が咲き、緑豊かな浦安市の弁天ふれあいの森公園。その周辺に広がる閑静な弁天2丁目地区では、今後の地震に備えた市の市街地液状化対策事業に基づく地盤改良工事に、初めて全戸が合意した。東日本大震災から5年を迎える今春、ようやく工事が始まる。

 震災の大きな痕跡はすでに見当たらない。だが、当時の深刻な被害は住民たちの心に深く刻まれている。「あんな経験は二度とごめんだ」「負担が大きく、苦渋の選択だった」。さまざまな思いを胸に秘めながら、災害に屈しないまちづくりを目指し、復旧復興の道を歩む。

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 平成23年3月11日。激しい揺れによる液状化で、土砂混じりの水が噴き出した。元会社員の男性(76)は、家の周囲や近所に50センチほど積もった土砂を、スコップで取り除いた。「土砂は重い。3日かかった。大変な作業だった」

 地中に埋設された上下水道が破損。断水が続いた。「小学校の仮設トイレに通った。風呂も洗濯も駄目。あんな暮らしは二度としたくない」と語る。

 市などによると、液状化の被害を受けたのは市域の86%。被災は約3万7千世帯の約9万6千人に上った。同様の被害を繰り返さないようにと、市はセメントなどの強化材を道路や宅地境界の地中に埋め込み、地盤を強化する「格子状地中壁工法」に取り組むことを決定。昨年、工事の事前調査に合意した16地区(計約4100戸)で調査を行い、地区ごとに工事費を算出した。

 国と市の補助があるが、住民は多額の自己負担を迫られる。1戸当たりの自己負担額が400万円を超す地区もあった。地区で反対が1戸でもあれば、工事の実施は困難になる。

 弁天2丁目地区の負担額は1戸当たり196万円だった。住民たちは何度も話し合い、隣接する区域全45戸の合意に至った。会社員の男性(55)は「お金を出して工事を行い、浦安ブランドを向上させた方がいいと最初から決めていた」と合意を歓迎する。

 2月下旬には家屋事前調査が始まった。工事関係者が住宅の外壁や玄関先などの現状を記録。工事は夏には完了する予定だ。市の担当者は「市が責任を持って対応する。しっかり監督し、検査も行う」と、初の工事に万全な体制で臨む構えだ。

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 一方、今川2丁目地区(73戸)と同3丁目地区(18戸)は住民合意に至らず、工事を断念した。住民の男性は「何度も集まって話し合ったが、意見の一致に至らなかった。全戸合意が必要な格子状地中壁工法にこだわることなく、他の工法による選択肢があっても良かったのではないか」と指摘する。

 残る地区では、説明会や住民の協議が続く。ある地区の元会社員の男性(72)は「地盤改良工事は将来のためにいいことだ。だが、『負担金が高い』という人もいる。価値観が違う。みんなが合意するのは難しい」と話す。

 負担金に同意した弁天2丁目の元会社員の男性(78)は、正直な胸の内をこう吐露した。「年金で生活しており、苦渋の選択だったが、住民同士で波風立てず、仲良く暮らしたいと思った」

 市の担当者は「弁天2丁目以外にも、住民の8、9割の合意を得た地区もある。丁寧に説明して全戸合意を取り付け、できるだけ多くの地区で地盤改良工事を進めていきたい」としている。 (塩塚保)

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 東日本大震災から間もなく5年。各地の復旧復興の取り組みや、いまだ解決しない課題、未来に向けて奮闘する人々の姿を追う。

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