ポピュレーションを測る単位が日本では人口と「口」で数えるのに対し、フランスではアーム(●me)「魂」で数える。キリスト教国では教会が人口を把握していたからだ。今でもカトリック神父は人間が恣意的に産児制限するなど神意にもとると説教している。
人口増に対する日本の第一の解決策は徳川時代以来、間引きだった。柳田国男は明治21年、茨城へ行き、どの家にも子供が二人しかいないのは、生まれた赤子を口べらしのために殺すからだと知ってショックを受けた。利根川べりの地蔵堂に絵馬が掛けてあり「その図柄は産褥(さんじょく)の女が鉢巻を締めて生まれたばかりの嬰児(えいじ)を抑えつけているという悲惨なものであった。障子にその女の影絵が映り、それに角が生えている。その傍に地蔵様が立って泣いているというその意味を、私は子供心に理解し、寒いような心になったことを今も憶(おぼ)えている」と記した。明治43年作の長塚節『土』にも農婦の堕胎の様が描かれている。20世紀になっても日本の田舎ではそんな形で口べらしをしていたのである。