理研CDBが語る

いいにおいも嫌なにおいに感じる「異臭症」、嗅細胞が迷子になってしまうのが原因か

【理研CDBが語る】いいにおいも嫌なにおいに感じる「異臭症」、嗅細胞が迷子になってしまうのが原因か
【理研CDBが語る】いいにおいも嫌なにおいに感じる「異臭症」、嗅細胞が迷子になってしまうのが原因か
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 神戸はグルメな街だ。通りに面した洋食屋さんからはデミグラスソースのにおいが漂ってきて食欲がかき立てられる。

 だが、そんなにおいがくさいにおいに変わってしまったらどうだろうか。本来いいにおいのものをかいでも、いやなにおいと感じてしまう「異臭症」という病気がある。事故などで頭に大きな衝撃をうけた後におこることが多いとされているが、発症のメカニズムや治療法はいまだわかっていない。

 私は耳鼻咽喉科の医師である。鼻が利かない、においがしないという理由で耳鼻科外来に訪れる患者さんは多い。その多くは鼻炎などでにおい物質がにおいを感知する細胞まで届かない、あるいは風邪や薬などにより嗅細胞が部分的に死んでしまうことによって起こる。

 しかしながら、嗅細胞は傷ついて死んでしまっても再生することができるタフな細胞である。一時的に鼻が利かなくなっても適切な治療を受けることで嗅細胞は再生し、においが戻ってくることが多い。

 一方で、この異臭症には有効な治療法はない。どんなにおいも嫌なにおいに感じてしまっても命にはかかわらないが、患者さんは苦痛とともに日々を過ごすことになる。困っている患者さんの助けになれないことは非常に心苦しい。

 この異臭症の研究をするために、大学院生としてCDBにやってきた。嗅細胞は再生できるのに、においが変化してしまうのはなぜだろう。嗅細胞は脳内の嗅球という場所に軸索という突起をのばし、においの種類ごとに異なる番地へと配線することでにおいを正しく感知する。

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