この年の5月には、正男が別人名義の旅券で日本への不法入国を図ったとして、成田空港で妻子とみられる男女とともに拘束され、強制退去となる事件が起きた。「息子にディズニーランドを見せるため」だったとも伝えられたが、それだけではなかった。
当時、正男は、朝鮮人民軍大将の肩章を付けた制服での活動も確認され、ミサイル輸出事業に深く関与していたとされる。正日の秘密資金を管理する朝鮮労働党「39号室」の幹部として、マカオにある傘下企業「朝光貿易」の総責任者を名乗ることもあった。
北朝鮮がイラクに輸出した肩持ち式対空ミサイルSAM16A300基分の代金回収が訪日の本来の目的だったようだ。正日から委任され、イラク軍からの送金をスイスや香港、シドニーで回収し、最終任務地が東京だったという。
所持していたのは、ドミニカ共和国が正式に発行した旅券で、名義は「PANG(パン) XIONG(ション)」、中国語で「胖熊(太っちょグマ)」の意味だ。生年月日は1971年5月10日、名前を除き、全て「本物」だった。
「正男の逮捕(拘束)劇は、姉の作品(仕業)だろう」。98年に米国に亡命した英姫の妹、高英淑(ヨンスク)は、米中央情報局(CIA)関係者にこう語ったという。