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重文を売り払った寺と重文に格上げされた寺

天文7(1538)年開山と伝わる弥勒寺。長年住職が不在で本堂が荒れ放題だったが、現住職が修復に取り組んだ=奈良県大和高田市
天文7(1538)年開山と伝わる弥勒寺。長年住職が不在で本堂が荒れ放題だったが、現住職が修復に取り組んだ=奈良県大和高田市

 重要文化財の仏像など3件を文化庁に立て続けに売却した奈良県内の寺を、支局の記者が取材した。「田舎の弱小寺が重文などを持っていると、いつ盗まれるか気が気ではない。国が保存、継承してくれた方がいい」というのがその理由だった。

 とはいえ、売却額は計約10億円。「運営費や修理費に充てた」と聞いても「全部じゃないでしょ」と勘ぐりたくなる。文化財保護法により、国宝や重要文化財を売却する際は文化庁への届け出義務があり、国は優先的に買い取れる。毎年20~40件の売却申し込みがあり、平成27年度の購入予算は13億7千万円というから、先述の寺のような所有者は少なくないのかもしれない。

 一方で、長年住職が不在だった寺に70歳で着任。本堂修復に取り組み、重文に格上げされた本尊を守る住職もいた。檀家(だんか)はなく、夫婦の年金が唯一の収入だが、「仏様の身近に仕えるのが一番ありがたい。教えを地域に伝えることで本来の信仰が生きる」と今後も守り続けるという。

 仏像の売却は違法でも不当でもない。ただ、2つの寺はあまりに違っていた。覚悟が。(奈良支局 木村さやか)

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