中米で独自の繁栄を築いたマヤ文明は「神秘的で謎に満ちた文明」というイメージで見られがちだ。著者で気鋭のマヤ考古学者、青山和夫氏はこうしたマヤ文明観は「時代遅れ」と指摘する。
神秘性を過度に強調した誤ったイメージがなぜ、広がったのか。それは、絵画のような美しさを持つマヤ文字の碑文で解読された内容が、天文学、暦、宗教に限定されていたため、マヤ人は秘技的な営みに没頭していたと解釈されてきたためだ。
ところが20世紀後半、マヤ文字が実は漢字かな交じりの日本語のような構造を持つことが分かってくるにつれて、解読が飛躍的に進展。マヤの諸王は、石碑に自らの図像を彫刻させ、支配層の名前や称号、王朝の家系、戦争や捕虜などの記録も残しており、謎とされた文明の実像が明らかになってきた。
にもかかわらず、商業的な映画やメディアは今もなお、謎や神秘ばかりを強調し、ゆがんだ文明観が修正されないままになっている、と著者は言う。
本書はマヤ文明だけを詳述したこれまでに例を見ない事典だ。誤ったイメージから脱却し「人類史上、最も洗練された究極の石器の都市文明」の実像を知ることができる。
東京堂出版。2800円+税。
(徳永潔)