静岡人語り

主婦で漫画家・江川直美さん(51)(中)

 ■介護生活と漫画制作を両立 宗良親王は難しく二の足…

 結婚をしたときに漫画家としてデビューすることや漫画を描くことを主体にする生活は諦めました。でも、もし何か漫画に関わる機会があったら描こうという気持ちは残っていました。

 私はもともと料理をしたり、生活の中で工夫をしたりすることは好きだったので、家庭生活は面白く、漫画を描けなくても不満はありませんでした。でも介護が大変だったことは確かです。

 義母はパーキンソンが徐々に進んで認知症にもなっていったため、目を離せなくなりました。それでも義母と私は気が合ったのだと思います。とてもかわいがってもらいました。主人は自営業で家にいましたので、何かあったら「来てー」と叫べば助けに来てくれました。困ったこともたくさんありましたが、介護をすることで何より自分自身が成長させてもらえたのです。

 私たちは家で義母を最後までみとることができ、恵まれていたと思います。義母との時間は主人と私にとってとても貴重で、かつ強く幸福を感じた時間でした。

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 介護が生活の中心になっている頃、浜松の偉人、賀茂真淵翁の漫画を小学生でも読める内容で作るという話が舞い込んできました。真淵の生誕地の近くに浜松市立県居(あがたい)小学校があります。県居というのは真淵の号で、この学校では「県居読本」という真淵について学ぶ独自の副読本が戦前から使われており、全校生徒が毎朝真淵の和歌を朗誦しています。

 学校ではこの読本の理解を深める導入の教材などが欲しいという希望があったらしく、「漫画のようなもので県居読本を補完する冊子が作れないか」というのです。それならこの学校に使ってもらうだけでもいいからと、企画がスタートしました。主人は地元で日本の歴史文化伝統を大切にするさまざまな活動や運動に関わっているので、いろいろな方にお願いをし協力していただきました。

 真淵の本作りと介護の一番大変なときが重なってしまいました。何かあったらすぐに対処できるよう、義母のそばに机を置いて、義母と会話をしたり様子を見たりして描いていました。義母のリハビリの先生が漫画好きで、ベタ塗りや仕上げを手伝ってくれたりもしました。けっこうストレスもあったのかもしれませんが、自分としては漫画を描きながら介護をすることが、同時にストレス解消になっていたのかもしれません。

 漫画「賀茂真淵先生」は浜松市も助成金を出してくれることになり、1万4千部を作りました。最終的には市内の全小学校に配り、郵便局や金融機関、さらに市内だけではなく県内全域の公立図書館にも置いてもらいました。漫画を諦めていたのに、人生はつくづく不思議だと思いました。

 本が完成して配送も終わったのを見計らったように義母は亡くなりました。

 真淵の本を作っている頃から次は宗良親王(むねながしんのう)をという話も出ました。宗良親王は後醍醐天皇の皇子で、井伊家(来年のNHK大河ドラマ「井伊直虎」の先祖)と共に遠州で戦われました。しかし、宗良親王は活躍の期間と地域が広大で、何より南北朝という時代背景が子供たちには難解すぎて、漫画にするのは無理かなと思っていました。(「賀茂真淵先生」=http://mabuchisensei.hamazo.tv/=と「歌人宗良親王物語」=http://munenagashinnou.hamazo.tv/=はホームページで読むことができます) (構成 深山茂)

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【プロフィル】江川直美

 えがわ・なおみ 昭和39年、山口県柳井市生まれ。ノートルダム清心女子大卒。漫画家を目指して上京、少女漫画家のアシスタントを務めた後結婚。介護のかたわら挿絵、4コマ漫画、教育関係の導入漫画、歴史漫画など執筆。「素読・暗誦のための言葉集(明成社)」「賀茂真淵先生」「歌人宗良親王物語」ほか。地方の歴史に根差した偉人伝を描き、子供たちに語り伝える活動をしている。

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 毎週金曜日に掲載します。

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