ロシアの「毒殺」は小説より奇なり-。2006年に元ロシア連邦保安庁(FSB)中佐、リトビネンコ氏(当時43歳)が暗殺された事件の真相を解明する英国の独立調査委員会(公聴会)が最終報告書でロシア政府の関与の可能性を示し、リトビネンコ氏のほかにポロニウム210で毒殺された人物を特定したことなどからロシアが政敵をいとも簡単に毒殺する「暗殺国家」であることを改めて裏付けた。(ロンドン 岡部伸)
ボルシチに睡眠薬
プーチン大統領が毒殺を「承認した可能性が高い」とする英国の調査委員会の結論に妥当性があると判断した。筆者自身、モスクワ特派員時代にロシア情報機関から飲食物に睡眠薬を混入された経験があるからだ。赴任して間もない1997年4月か5月ごろ、投宿したサンクトペテルブルクのホテルでルームサービスのボルシチを取って食べたところ、衣服を着たまま熟睡してしまい、翌朝起きると財布の中から、米ドル札だけが抜き取られていた。パスポートやルーブル札は残っていた。不審に思い、外務省の知人に相談すると、しばらくしてロシア情報機関から次のような回答が来たと伝えてくれた。