中央葡萄酒(ぶどうしゅ)(甲州市勝沼町)が高品質ワインの拠点として、ブドウ栽培からワイン醸造までを一貫して行っている北杜市明野町の「ミサワワイナリー」に昨年末、ワインカーヴ(貯蔵庫)が完成した。全国的にも珍しい地下式のカーヴだ。最良の環境で長期熟成させ、西欧など世界で認められるワインの供給を続けていくという。(甲府支局 中川真)
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「自社畑で栽培したブドウを3キロ先のワイナリーで醸造し、できたワインを他者に委ねず、敷地内で自ら熟成させる。理想の形ができました」
近年の日本ワイン興隆に貢献してきた三沢茂計社長(67)が、熱く語る。
完成したカーヴは、地面を掘って地下に建設されたもので広さ470平方メートル。95樽(たる)とワインボトル63万本を貯蔵できる。
室温は常に15度。「空調で室内の空気を動かさずに済む」(三沢社長)という。樽の下に敷いた小石に水を流し、湿度70%を維持する。国内では最高水準の貯蔵庫といえる。
こだわりの最大の理由は世界への挑戦だ。
明野は日照時間が日本一とされ、標高700メートルの気候も冷涼。醸造用ブドウの栽培に適した場所だ。
同社は勝沼に次ぐ新たな拠点として平成14年、南西向きの斜面で赤のメルロ、白のシャルドネなど欧州系品種の栽培に着手した。
その後、日本固有品種で白の「甲州」を一般的な棚ではなく、垣根で栽培している。1本の木からの収穫量は、棚の約500房に対し、垣根は15~20房。粒も棚栽培よりも小さい。
しかし、陽光が葉に遮られずに房に届き、高い糖度と凝縮感のあるブドウができる。補糖やシュール・リー(発酵後に澱(おり)引きせずにワインを保ち、酵母のうま味を引き出す)などの醸造技術に頼らず、ブドウ本来の個性を引き出せる。
三沢社長と、世界各地でワイン作りを学んだ長女の三沢彩奈・栽培醸造部長(35)が試行錯誤を重ね、糖度20度を超えるブドウから「キュヴェ三澤 明野甲州」を完成させた。三沢社長にとっては20年越しの挑戦だった。
「2013」のヴィンテージは、海外で受賞するなど、高い評価を得た。
三沢社長は「ポテンシャル(潜在力)が高いワインを出したい。まずはカーヴで3~5年間の貯蔵中に、海外へ先行販売できるようにしたい」と力を込める。各国で当たり前に受け入れられる水準にワインを高め、特に良いものを長期コレクションするという。
「ゆっくり時を重ね、価値を高める熟成ワインは、地方にふさわしい」とカーヴへの思いを語る。
昨年、日仏合作ワインを手がけるなど活躍している彩奈さんも、「『日本のワインは熟成しない』というイメージを覆したい」と闘志を燃やす。「これが『山梨の味』と分かるワインを作る」ことが目標だ。
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■中央葡萄酒 大正12年に勝沼で創業。昭和57年に就任した三沢茂計社長は4代目。平成14年、北杜市明野町に自社農場開園(8.6ヘクタール、現在は12ヘクタールに)。「甲州」のブランド力を高め、海外進出を主導する。国内外で多数の受賞歴を誇る。