「ジョルジョ・モランディ」展 イタリア美術の伝統抽出

 彼が静物画の範としたフランスの画家シャルダンやセザンヌだけでなく、イタリア中世末の巨匠ジョットの堅固な造形性やルネサンスの画家ピエロ・デラ・フランチェスコの調和に満ちた構成、バロックの天才カラヴァッジョの光の効果などを研究し、それらの造形の核心に迫ろうとした。いわばイタリア美術の最良の伝統を抽出し、小型の画面に凝縮して丁寧に塗り込めたのである。そのため彼の芸術はきわめてイタリア的に見え、同時代からイタリアの批評家や美術史家に熱烈に支持されたのであった。長らく西洋美術の中心であったイタリアは、19世紀以降フランスに水をあけられたが、その偉大な伝統を継承し発展させたという点で、モランディは20世紀イタリア最大の巨匠と目されている。

 もっともこうしたことを知らなくとも、その画面は誰しもひきつけてやまず、近くに寄って眺めても、いつまでも見飽きることがない。わずかなモチーフによる地味な静物画がなぜこれほどの表現力をもつのだろうか。それこそがまさに絵画の神秘であり、絵画というメディアがいまなお衰えずに生き続けている理由であるといってよい。絵画とは何か、絵を見るとはいかなることなのかということまで考えさせてくれる。どの作品も一見寂しげで孤独を感じさせるが、じっと見ているうちに温かいものがこみ上げてくる。寒い時期だからこそ一人でじっくり見たい展覧会だ。(美術史家、神戸大大学院人文学研究科教授 宮下規久朗)

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