湯浅博 全体主義と闘った思想家

独立不羈の男・河合栄治郎(22)その生涯編・米国での交流 女性に心を寄せ……

今では両岸に高層ビルが立ち並ぶハドソン川。大正の初め、河合栄治郎は米国生活で忘れがたい人たちと出会った
今では両岸に高層ビルが立ち並ぶハドソン川。大正の初め、河合栄治郎は米国生活で忘れがたい人たちと出会った

(毎週土日に掲載します)

ハザノウィッチと出会う

 ハリエット・ストウ夫人の著書『アンクルトムの小屋』は、米国南部の奴隷たちの悲惨な境遇を扱った小説である。小説が発行された1852年当時の米国は、奴隷問題で南北分裂の危機を抱えていたため大きな反響を呼び、南北戦争の引き金の一つになった。

 河合栄治郎はストウ夫人の小説が奴隷廃止につながったように、工場労働者を描いた影響力のある書物を探していた。栄治郎がニューヨークの書店で、手にしたのはエリザベス・ハザノウィッチという女性が書いた『彼等の中の1人』であった。偶然とはいえ、最初のページをめくると、たちまち夢中にさせられた。

 ある日、訪問先の「婦人衣服製造職工組合」でプライス博士と話しているうちに、話題が著者のハザノウィッチのことに及んだ。すると、博士が「彼女なら隣室で、工場監督係として勤務していますよ」といって、すぐに紹介してくれた。

 ハザノウィッチは26、27歳だろうか。ウクライナ出身のユダヤ人である。人種的な迫害に苦しんで一人カナダに逃れ、まもなく米国にやってきた。高い教養を持ちながら満足な仕事に就けず、「異国での貧困と病気の絶望的な日々」から組合の設立に奔走し、その体験を基にこの本を書いた。

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