スポーツ異聞

女性登山家・谷口けいさんの滑落死から何を学ぶのか? 山のトイレ事情と「用足し」論

トイレ事情が悪いという点では、谷口さんが滑落死した北海道内の山もそれほど変わらない。四季を通じて登山客に人気のある北アルプスと違って山荘・ロッジと呼べるような充実した施設はなく、登山客の多くはテント泊である。標高1984メートルの黒岳の頂上付近にトイレはなく、20分ほど下った避難小屋にトイレが付設されているが、頂上から歩いていくには遠い。頂上付近にいた谷口さんは「お花摘み」(登山用語で用を足すことを指す)に行こうと雪道をかきわけ、勾配のある足場に気づかずに滑落した。死因は「脳挫傷」と分かった。滑落した際に岩場に頭部をぶつけたらしい。

当時、山頂付近には数十センチの積雪があったとはいえ、例年に比べて雪は少なかった。一見、世界的な登山家らしからぬ「あっけない最期」のように映る。しかし、山の世界では「魔が差す」としか言いようがない初歩的な事故が起こることが珍しくない。

ジャーナリスト、本多勝一の代表作『新版 山を考える』(朝日文庫)によると、安全度の高い確率の中で行動していながら、残りの「危険の確率」にひっかかるという。「どんな大ベテランも、登山の第一線にいる限り、いつかはこの『小さな確率』にひっかかる」と警鐘を鳴らす。

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