福島県いわき市の水族館「アクアマリンふくしま」で、毎月第3日曜日に開かれているイベント「調(た)べラボ」。同館の獣医師、富原聖一さん(42)が問いかけると、子供たちから元気な声が返ってきた。
原発事故の被害を受けた「福島の海」がどうなっているか。地元の釣り人らが原発の近くで魚を釣って、放射性物質の濃度を測り安全を確認して食べる活動を続けている。
この日は福島第1原発沖3~10キロで取れたヒラメやアイナメ、キツネメバルを客の目の前で解体。いわき市沖で取れたタラと野菜をみそで煮込んだタラ汁も振る舞われ、約200杯分の鍋が数時間で空になった。
「原発事故後に生まれたから、このヒラメは今の海の汚染を反映しているはず」。富原さんが解体したヒラメの筋肉を測定器にかけると、約1時間で「放射性セシウム ND(検出限界以下)」とモニターに表示された。
会場は小さな子供を連れた若い夫婦の姿も目立つ。いわき市に住む母親は「きちんと測定して問題なければ、やっぱり地のものを食べたいし、子供にも食べさせたい」と、タラ汁をおいしそうにほおばっていた。
「一口食べてもらえれば、風評の垣根は越えられる」。富原さんがそう願う福島の海は陽光に輝いていた。
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【風評被害】 本来「安全」とされる食品や土地などについて、報道による影響や根拠のない噂で人々が危険視し、発生する経済的損害。過去には、米軍の水爆実験による「第五福竜丸」被曝(ひばく)事件(昭和29年3月)▽日本海で沈没事故を起こした「ナホトカ号」重油流出事故(平成9年1月)▽作業員2人が死亡した茨城県東海村JCO臨界事故(11年9月)-などで農水産物を中心とした風評被害が発生している。