今年のNHKの大河ドラマは「真田丸」である。真田信繁いわゆる幸村を演じるのは堺雅人だ。彼がいかに役作りにこだわるかについては定評がある。さまざまのイメージのある幸村をどんな人物として演じるか興味深い。その堺雅人がある雑誌のインタビューで幸村を「物事柔和忍辱(にゅうわにんにく)にして強からず。言動少々にして怒り表すことなかり」というキーワードで演じたいと言っていた。これは兄の信幸の幸村評の言葉らしいが、堺雅人流にかみ砕くと「ほんわかしていて優しくて、感情を表に出さず、口数が少なくて、いつもニコニコしていて、でも何か心に秘めたことがある、そんな人物でしょうか」。
これは堺雅人自身のことではないか。私はそう思った。じつは堺雅人を高校1年生の時から知っている。私が勤めていた宮崎県のある高校の生徒で、私の相談室をよく訪れては鋭く深い問いで私を悩ませた。そんな交流は現在まで続いており、今でも会ったときには難問を突きつけられる。おそろしいような問いをニコニコして出されるから、こちらもニコニコしてごまかすことにしている。
そんな彼と共著を数年前に出したことがある。『ぼく、牧水!』である。宮崎の生んだ歌人若山牧水についての対談を収めたものだ。牧水は旅を愛した歌人として知られるが、自然と人びととの出会いを楽しむ旅の歌について話題にした。
〈山に入り雪のなかなる朴の樹に落葉松になにとものを言ふべき〉