海道東征を紡ぐ 信時潔物語

(20)第一次大戦後、秩序取り戻したベルリン、信時は相変らず

 小出はその年の10月、ドイツを訪ねている。目的は買い物と、信時に会うことだった。当時、ドイツが見舞われていたインフレについて、小出も石●(=さんずいにウかんむりに眉の目が貝)宛ての書簡に「物価は日に日に上がるよ、然(しか)し安いもんだ(中略)気の毒なくらいだよ」と記し、23日間のドイツ滞在中に靴や時計、オーバー、写真機、トランクなどを買っている。

 滞在のビザの期限が迫り、パリへ戻る直前、小出は信時とようやく会った。そのときのことを石●(=さんずいにウかんむりに眉の目が貝)宛ての書簡に書いている。

 《やつと、信時に会ふた、一晩一シヨに、めしを喰(く)つた、相変らず、日本で着てゐた、らしい、古ぼけた、オバーを着て、ジジムサク、やつてゐたよ》

 日本人にとって買い物がしやすくなっていたドイツで、信時はオーバーを新調することもなく、自分の勉学に励んでいたのだろう。短い1文ながら、旧友の目を通じて、信時の人となりが伝わってくる。

 小出はパリに帰るまでにもう一度会う予定だったが、結局会わずに戻った。一夜の再会で、2人は近況を話し、欧州で刺激された芸術観について語ったのだろう。ベルリンの空に、大阪弁を響かせて。

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