櫻井よしこ 美しき勁き国へ

原子力規制委が止めた癌治療 的外れな規制に国会監視を強化せよ

 BNCTの治療では、特殊なホウ素を含んだ薬剤を投与し、癌細胞が薬剤を取り込んだタイミングで中性子を当てる。するとホウ素が中性子を吸収して2つにパンと割れ、その際の放射線で癌細胞が死滅する。小さな爆竹を癌細胞に送り込むイメージだ。

 BNCTは癌の患部と正常組織がまじり合っている悪性度の強い癌にも有効で従来困難だった治療を可能にした。進化を遂げたBNCTの適用範囲は、当初の脳腫瘍と皮膚癌の黒色肉腫から舌癌、口腔癌、耳下腺癌、肺癌、肝癌に広がり、いまや癌克服の決め手として期待されている。

 治療の成功には、原子炉を運転して作る中性子を安全に扱う原子力工学、ホウ素を含む薬剤を開発する薬学、放射線治療専門の医学の、3チームによる高度の連携が欠かせない。それが全てそろっているのは世界でも京大原子炉実験所だけだ。ところが、このBNCT治療が中性子を用いた基礎研究とともに規制委に止められているのである。

 規制委が2013年に商業発電用原発の規制を強化した厳しい新基準を打ち出し、実験・研究用原子炉にも適用したからだ。京大の原子炉は出力5000キロワットと100ワット、近畿大のそれは出力わずか1ワット、関西電力大飯原発1基の約30億分の1、豆電球だ。これは空気で十分冷却される。

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