原子力規制委員会の不合理な審査で日本が誇る世界最先端の研究が停止に追い込まれている。年間数十人規模で助けることのできる命が、2年間も犠牲にされ続ける許し難い事態が発生している。
京都大学原子炉実験所は原子炉による実験および関連研究の拠点として昭和38年に開設された。以来、ここを舞台に全国の大学研究者が最先端の研究を進めてきた。2つの原子炉をはじめ各種加速器施設、大強度ガンマ線照射装置などを備える日本最大規模の統合的核エネルギー・放射線関連教育・実験施設である。
世界が注目する京大の研究の核は中性子を使った基礎研究だ。それが規制委の壁の前で完全に中止された状態が続いているのである。
中性子は物質の構造を比類なく正確に探るのに欠かせない。惑星探査機はやぶさが持ち帰った小惑星イトカワのサンプルの微量な元素の成分も中性子を当てることで分析できた。京大が中性子を活用して行う研究のひとつが「ホウ素中性子捕捉療法」(BNCT)という癌治療である。
1990年以降、京大のBNCTの臨床研究は500例以上、症例数および適用範囲の広さで世界最高水準にある。原子炉実験所・原子力基礎工学研究部門の宇根崎博信教授は、京大が社会貢献として最重視するのが癌治療のBNCTで、京大は研究の傍ら週1日をBNCT治療に割き、近年は年間40人から50人を救ってきたと指摘する。