iPS細胞講演詳報

「リスクゼロは不可能」「再生医療は人間を幸せにするのか」第一人者・高橋政代氏の情熱と苦悩

「変なことが多い」

 《日本では生命科学の研究に多くの予算が投入されているが、実用化で後れを取ることが多いという》

 文部科学省の予算で買った装置を厚生労働省の研究で使えないとか、変なことが多い。再生医療は、基礎研究からビジネスまでいろんなことが分かっていないと話が進まない。基礎研究で論文を書くのと企業が特許を取るのとではベクトルが異なる。標準的な治療にするには企業の力も必要だ。どうしても自分のテリトリーでものを見ようとする人が多いが、狭い視野の範囲で議論していると前に進まない。

 《高橋氏は、世界初となった移植手術から約1年後の昨年10月、がん化や副作用もなく経過は良好であることを発表した》

 本当に不思議なことですが、患者さんの皮膚の細胞からiPS細胞を作り、それが網膜の細胞になった。それを移植しました。1例目は絶対に失敗できないので、あらゆるリスクを排除した。手術が終わった時点で1年後も大丈夫だろうと確信していた。移植した細胞のがん化を懸念する見方は依然として多かったし、患者さん自身から作ったiPS細胞でも拒絶反応が起こるという論文もあったので、安全性を確認できたというのが極めて重要だ。ただ、大変なコストがかかってしまった。これでは標準的な治療にならないので、もっとコストを下げないといけない。

 ES細胞の研究で、網膜の再生医療は可能だと思っていた。ただ、ES細胞は受精卵を使って作るので、殺人だという人もいる。倫理的な面でためらいがあり、実用化で米国に先を越されそうだったが、iPS細胞が出てきたので一気に解決した。iPS細胞は皮膚や血液から作ることができる。それで、絶対に負けないぞと思って、ここまでやってきた。