科学論文をめぐる新たな不正が近年、アジアを中心に問題化している。著者らが論文内容をチェックする第三者の査読者になりすまし、審査過程を乗っ取るという大胆な手口だ。編集作業のオンライン化に伴う弱点を突くもので、都合のいい査読結果を著者に販売する業者まで出現。学術誌側は不正対策の強化に追われている。
身分を偽装、専門家になりすまし
科学者の研究成果が国際的に認められるためには、論文を学術誌に掲載する必要がある。名のある学術誌のほとんどは論文の信頼性を担保するため、採否を判断する際に専門家による査読を実施している。
査読では結論に至るデータの不備を指摘されたり、掲載に値しないと判断されたりすることも多い。1本でも多く論文を発表し、業績をアピールしたい科学者にとって、査読者は緊張を強いられる存在だ。
研究不正では2014年に発覚した理化学研究所のSTAP細胞論文のように、データを改竄したり、盗用したりするケースが歴史的にも頻繁に起きてきた。だが査読のシステムを乗っ取る不正は近年、新たに表面化したものだ。
この手口がいつ生まれたのかは不明だが、最初の発覚は12年、中国・貴陽中医学院に所属していた科学者が執筆したミニブタのクローニングに関する論文との説がある。同年には韓国の科学者による論文で同様の査読詐欺が発覚。30本を超える論文の撤回が生じ、大きな関心を集めることになった。