この問題の調査を担当した神谷延治弁護士は「男性は性犯罪により収容されていたのではない上、他の収容者と離されて単独処遇を受けていた。拘置所のいう『恐れ』は抽象的な可能性に過ぎず、図書閲覧の自由を制限できるほど蓋然性の高い現実的な危険性とは言い難い」と指摘した。
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一方、交際男性を殺害したとして殺人罪に問われた東京・銀座の元ホステス、菊池あずは受刑者(29)=27年12月に東京地裁で懲役16年確定=の公判でも、拘置所での処遇が問題化された。菊池受刑者は男性として生まれたが、性同一性障害と診断され、性別適合手術をして女性となっていた。
弁護人によると、菊池受刑者は起訴後、収容された東京拘置所に女性ホルモン剤の投与を希望したが、同拘置所は「病気治療薬ではないため認められない」と却下。弁護側は「人権上な観点から、速やかな投与が必要だ」と主張したほか、証人として出廷した医師も同様の証言をした。
性同一性障害を研究する「GID学会」の理事長で医師、中塚幹也・岡山大学大学院教授=生殖医学=は「性別適合手術を受けた後はホルモン投与が不可欠。投与がないと、抑鬱症状や体調不良、血圧上昇など身心に変調が生じる」と指摘。その上で、「刑事施設にも医師はいるが、性同一性障害への対応について詳しい知識を持っているとはかぎらない。対処に悩んだ場合は外部の専門家に問い合わせ、意見を取り入れるなど柔軟な対応をしていくべきだ」と話している。
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法務省も取り組みを始めている。性同一性障害で男性から女性への性別適合手術を受けた収容者に対し、戸籍上の性別変更をする前でも入浴や身体検査は女性職員が対応するよう全国の拘置所や刑務所に通知を出したことが27年10月に判明。「戸籍上は男性」との理由で女子刑務所に入れなかった受刑者について兵庫県弁護士会が法務省に改善を申し入れていたことなどを受けた措置だが、今後は女性から男性への性別適合手術を受けた収容者に対しても同様の措置がとられるとみられる。